中國には「民以食為天(民は食をもって天となす)」という言葉がある。これほどに食を重んじる中國人、美食は蕓術に値するとすら考えられているかもしれない。北京ダック、上海蟹、四川のスパイシー料理、西安の餃子宴など、中國を旅したら、世界遺産と自然景観だけではなくグルメも満喫するべきである。
■北京ダック
悠久の歴史と宮廷文化を背景に、數多いレシピ、こだわりの食材や精魂こめた技法を生み出した北京料理は世界に褒め稱えられている。中でも、300年以上の歴史を誇る北京ダックは代表料理で、國內外で有名である。明朝(1368~1644年)の宮廷料理として皇帝や宮廷の人々に愛され、清代(1636~1912年)にはさらにその地位を高めた。「天下第一美味(この世で最高の美味)」とも言われる。
その作り方は特殊で、丸々としたアヒルを爐の中につるして焼く。パリっとしたアヒルの皮を削ぎ切りにし、砂糖、甜麺醤、蔥や細切りのキュウリと共に、小麥粉でつくった厚手の「荷葉餅(クレープ)」に包んで食べる。北京ダックの名店のうち、「全聚徳(チュエンジューダー)」「便宜坊(ピエンイーファン)」という2つの老舗が特に広く知られている。前者は爐の扉を閉めずに蒸し焼きし、後者は密閉した爐の中でつるし焼きするという違いがある。北京で萬里の長城にのぼったら、あとはこの有名な宮廷料理をぜひとも味わっていただきたい。
■上海蟹
秋の味覚といえば、上海蟹を見逃すことができない。前出の北京から遠く南に下り、まったく異なった食文化を持つ上海で、美食は伝統的に「考究(細やかに気を使うこと)」という言葉で一括される。その典型的な代表は上海蟹である。最も有名な産地は、上海市近隣の江蘇省蘇州市にある陽澄湖である。ワラで手足を縛り、20分ほど蒸し上げただけの蒸し蟹や、生きたまま紹興酒に漬けた酔蟹がお勧めの食べ方。新鮮な蟹の甘さを楽しむことができる。蟹味噌や肉がぎっしりと詰まった旬の上海蟹は、足を割れば肉がスルリときれいに抜ける。
文豪?魯迅はかつて、「上海蟹を初めて食べた人は最も勇敢な人である」という有名な言葉を殘した。実際に初めて上海蟹を食べた人をたたえているわけではなく、人々の探究心を鼓舞し、勇気を出して舊來のしきたりを打ち破るよう呼びかけているのである。今がまさにその上海蟹のシーズン。“最も勇敢な人”となって、上海で蟹を楽しむ旅に立とう。